アフガニスタンの退避作戦

  • 2021年08月29日


『政府は、少数の邦人とアフガン人職員ら最大約500人を輸送機で退避させる予定だったが、成功したのは共同通信の女性1人とみられる。防衛省幹部は、「退避作戦の継続は困難だ」と語った』

とある。では、継続しないということなのでしょうか?

【独自】JICA職員ら、空港へ出発直前にテロで足止め…日本人女性「爆発さえなければ」

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6402994【独自】

外務省、大使館、JICAには仕事柄とてもお世話になっています。弊社の多くのスタッフが、年の半分を、中東を含む途上国で過ごす身ですから、他人事ではありません。

危険な地域であっても、大使館や、事務所があるならば勇猛果敢に赴任された方々です。

退避できなかった人々は今後どのような運命が待ち受けているのでしょうか?

想像に難くないことでしょう。

退避は生命を守ることです。

映画にもなりましたので、イランーイラク戦争の時に、テヘランや周辺都市で起こったことはご存知の方も多いと思います。

日本人を含む無差別攻撃を公言していた中で、日本の民間機はもちろん自衛隊機すら救出に向かわなかったのです。

政府は両国から飛行の安全が保障されることが特別機派遣の前提とし、両国と折衝したが、イラク側から明確な返事は得られなかったため派遣されなかったのです。

結局、1890年のエルトゥールル号の遭難事故で支援した日本へのお礼にトルコ航空が向かってくれました。

日本大使館も頑張ったお陰で、乗ることができました。

美談ではあるが、法整備も含めて大きな課題が残りました。

当時テヘランに赴任していた商社マンの知人がいます。

彼は命からがら陸路で脱出することに成功しました。

その時のことがきっかけで、政府のことはまるで信用しなくなったと言っています。

以下少し考察してみます。

法整備

今回の自衛隊派遣は自衛隊法84条の4に定める「在外邦人輸送」に基づくものです。外国人を対象とするのは今回が初めてでした。

今回、在アフガン邦人の方々の安全確保のために自衛隊が派遣されましたが、御存知の通り、在外邦人を国外退避させるための手続きとしては自衛隊法84条の3の在外邦人保護と同法84条の4の在外邦人輸送があります。こちらの在外邦人保護は、2015年の平和安全法制に基づいて新設されたものです。しかしこの法律には、武器の使用も想定されます。「当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること」などの規定があります。公共の安全と秩序が確保されていれば救出の必要はありません。このような法律ではこのような緊急事態では使えません。平和安全法制は自民党・公明党・次世代の党・新党改革・日本を元気にする会などの賛成多数により可決。批判していたのは、現立憲民主党、日本共産党、社会民主党等です。しかし、この法律は、上述のような現実に沿ったものではないため、救出をするためには、早く現地に派遣しなくてはならないことは明らかです。

ちなみに初めての邦人輸送は、イラクで2004年4月、宿営地のそばに迫撃砲弾が落下し、さらに日本人3名が武装勢力に拉致される事件が発生したことを受けて10名の記者をイラクからクウェートまで輸送し避難させたことです。つまり、2015年の法の制定前に実施しました。2015年9月19日にできた「平和安全法制」は、邦人輸送をより安全確実なものとするため、輸送だけでなく、`武器を使用しての警護や救出も認める`ことを決めたものです。つまり法改正がなくても、輸送だけならばできたわけです。それはそれで意義があるのでしょうが、今回のような救助に関しては、「武器の使用」云々ではなく、迅速な対応が求められていたはずです。

尊い人命の犠牲が無ければ、平和安全法制の改正はできないということなのでしょうか?

輸送機派遣のタイミング

今回の輸送はC-2とC-130輸送機が投入されました。輸送機なので航続距離が短いものです。つまり、給油を複数回行って初めて現地に辿り着けるものです。現地到着には時間がかかるのです。それでもC-1に比べてC-2は4倍の航続距離です。(約7,600km)これであれば1回の給油で済むでしょう。C-130はその半分以下しか飛べませんので、複数回給油をする必要があります。一刻を争う退避のタイミングなのに、時間がかかる輸送機の派遣を決めたタイミングは適切であったのでしょうか?

アフガン人職員は電話取材に、「日本政府が間に合うように連れ出してくれなかった。出国する策が思いつかない。危険が迫っている」と不安げに語った。との声には、胸が痛くなります。飛行場近くでバスに乗って向かう時にテロがあって引き返したわけです。早く救援機が到着していれば事情が異なっていたのは明らかです。

日本の優先順位

パラリンピックが開催中です。コロナ禍も収まる兆しがありません。自民党は総裁選が控えています。さらに衆議院選挙が待っています。

多面的に政府運営をしなくてはならないタイミングです。

しかし、優先順位は間違っていませんか?

後手後手に回って、救えるはずの人命が危機に晒されていませんか?

(2016年12月@ISとの戦闘が終焉間近のイラクにて)