最近好きなふたつの詩

  • 2010年08月20日

星もない暗闇で
さまよう二人がうたう歌
波よ、もし、聞こえるなら
少し、今声をひそめて
私の足が海の底を捉えて砂にふれたころ
長い髪はえだとなって
やがて大きな花をつけました
ここにいるよ、あなたが迷わぬように
ここにいるよ、あなたが探さぬよう
星に花は照らされて
伸びゆく木は水の上
(ワダツミの木 上田現より)

明朗と哀愁の立ちこめるところ―
白い手、白い顔白い吐息の三重奏の中にスタヂオマンの生活が、軽気球のように連繋されて流れている。
SFT―塵埃、人工光線、鎚鋸の音、
LOCAT―ON―汽車、レフレクタ !乗合自動車と―
  
そして 秋―
スタヂオの生活は、職務と時間を切抜けた人間をやるせない淋しさへ叩き落すのだ。
  
よく晴れた日―など・・・・・
オ−プンの車を飛ばして風景のいゝ場所へロケエシオンに出掛る事は颯爽たるカツドオヤの横顔でもある―
  真蒼な空をよぎる真ッ白な雲の下腹の表現派構成。
  天高く馬肥ゆの秋
  濃緑こまやかな杉林の下なる渓流に、瀬音高く澄める水―
  
 岩陰の現場調べにさゝやかな小径を降りて
 渓流のふちに佇めば、遥かなる山の瑞れを、
 雲はちぎれゝて飛んで行く。
 素晴しいその移動風景―
 荘重なるその外貌―
 憂鬱な京都の街の印象―脳裏深く刻み込まれた灰塵の聯想―を、
 その蒼さ、その美しさが、匿うて流して、またあまりにも清澄すぎる―
  あゝ空飛ぶ雲―
  ボオドレエルの好きだった雲―
  爽凉の秋―
  葦の枯穂の揺れる此の街道筋には、稀に大原女姿の田舎びとのまばらに通るも見ゆ
(スタヂオの屋根の下―日夏英太郎)