20世紀は私たちに何をもたらしたのでしょうか?成果を総括すると、平均寿命、一人当たり所得、教育程度、公衆衛生など、人々の福祉に大きな前進があったことは、日本でも世界で確認できます。また、政治社会制度としての民主主義の世界的普及も20世紀の大きな成果だと言えます。
しかし産業革命から続く技術革新によって、人類は歴史上比類なき生産力を実現した一方で、その生産力を創出する過程で多くの資源を浪費し、大量生産・大量消費・大量廃棄といった、資源枯渇と廃棄物の問題、局所的な環境の劣化という問題に直面しています。とりわけ、私たち日本人が直面した深刻な公害問題は、個人の福祉を実現するために所得の向上を目指した結果、個人の福祉が失われるという、手段と目的が転倒してしまった事例といえるでしょう。
21世紀に入り、私たちは前世紀から遺された地球環境問題に直面しています。一口に地球環境問題といっても、地球温暖化だけでなく、オゾン層の破壊、酸性雨、砂漠化、生物多様性の喪失、海洋国際河川の汚染、化学物質・有害廃棄物の越境移動など多岐にわたり、国や地域によって影響も様々です。
このように地球が環境的限界に近づいていることは、広く一般にも共有されるようになってきました。私たち個人一人一人が地球環境問題に興味・関心を持ち、地球環境問題解決の為に実践していく『環境の世紀』を迎えたのです。
『環境の世紀』を迎え、社会、顧客が企業に求める価値が、「機能的価値」→「心理的価値」→「環境的価値」へと変化しつつあります。
顧客自身が得られる製品の特性、便利性(操作性・スピード・価格合理性など)顧客の満足度、継続率のベースをつくる価値
顧客が製品に求める価値の中で、かつて最も差別化を図る際に重要であった価値が機能的価値だといえます。例えば自動車であれば、早く移動する、重いものを運ぶ、安全である、という機能が求められ、大きく性能が良い車が求められました。 しかし、成熟市場になるにつれ、技術革新の方向性が変化したこともあり、高機能性は「当たり前の価値」となり、差別化が困難になりつつあります。
(経済的・情緒的)顧客自身の心理的欲求を満たす価値(感覚品質・権威性・独自性・経験的なプロセスの楽しさ)
機能的価値の次点で、製品や企業活動に求められているものは心理的価値と言えます。これは、顧客の心に働きかける要素で、「カッコいい」「芸能人がもっている」「歴史がある」などという価値です。自動車に求める心理的価値の現れとして、女性用のコンパクトカーや、歴史へのロイヤリティを感じさせる復興モデルなどが、市場に出回っています。しかし、時が経てブランドは固定化し、ブランドを持つことは当たり前になってきました。その中で顧客の心理的価値の対象が拡張をはじめ、自分自身が享受する価値ではなく「自分以外の誰か」が受け取る価値をも企業や製品に求めるようになってきました。
顧客を取り巻く他者や社会、自然環境とベネフィットを共有できる価値
心理的価値の対象は、社会一般や、弱者、困難に直面している人々など、「自分以外の誰か」をも含むように拡張を見せています。古典的にはチャリティーや募金活動などがあげられますが、近年、より主体的に自らの購買活動を「自分以外の誰か」が享受する価値へ紐づけようとする顧客が増えてきています。とりわけ『環境の世紀』と言われる21世紀になると、「エコ」「環境配慮」「ロハス」「省エネ」をキーワードとして、環境問題の防止・改善に貢献する価値が注目されています。ハイブリッドカーや電気自動車などのいわゆるエコカーは、顧客の望む環境的価値を製品に付け加えた好例と言えます。このように、企業は顧客の心理的価値の対象を綿密に分析し、顧客継続率と顧客満足度を高めるために、製品に環境的価値を加えることが重要になってきています。
コーズマーケティングとは、顧客の購買意欲と社会問題解決への貢献意識を結びつけるためのマーケティング方法です。
商品の売り上げが環境貢献活動へ結びつくという明確なストーリーを構築することで、心理的価値の延長として環境的 価値を求めるターゲット顧客への訴求力を向上させます。
新しくスーツケースを買った顧客に送り状を渡し、古くなったスーツケースを無料で回収するキャンペーンを実施。
回収されたスーツケースはリサイクルされるためキャンペーンの環境価値は元から高かったのですが、植林を追加することで「キャンペーンへの参加が木を一本増やす」というストーリーが生まれ、新たなファン・支援者の獲得に成功しました。