Removalは、DACだけの話ではありません。
廃棄物・資源循環の世界にも大きく関係します。
例えば廃棄物焼却施設では、プラスチックなどの化石由来炭素と、紙、木材、食品などのバイオマス由来炭素が一緒に燃えています。
ここで発生したCO₂をCCSで回収したとします。
化石由来のCO₂を回収すれば、基本的には排出削減です。
一方、植物が大気中から吸収した炭素に由来するCO₂を回収し、長期・永久貯留できれば、その部分はRemovalとして評価される可能性があります。
同じ焼却施設。
同じCCS。
同じCO₂1トン。
それでも炭素の由来によって意味が変わります。
バイオ炭も同じです。
バイオマスを炭にすれば、すべてRemovalになるわけではありません。
原料は何か。
製造時にどれだけCO₂を出したか。
炭素は何年間残るのか。
追加性はあるか。
MRVはできるか。
こうした条件を見る必要があります。
森林やブルーカーボンについても同様です。
これから大切なのは、
「クレジットを何トン作れるか」
だけではありません。
その1トンは排出削減なのか。
Removalなのか。
どれだけ長く炭素を固定できるのか。
そして、誰がその1トンを必要としているのか。
カーボンクレジット市場は、
「何トンあるか」
から、
「どの1トンなのか」
を考える時代へ入っているように思います。
同じカナダで、少し対照的なニュースがありました。
ドイツのセメント大手Heidelberg Materialsが、アルバータ州エドモントンで計画していた大型CCUSです。
計画では年間最大100万トンのCO₂を回収し、総事業費は約13.6億カナダドル。
非常に大きなプロジェクトです。
三菱重工業もCO₂回収技術で参加し、実証後には米Kiewitとフルスケール設備の基本設計まで進んでいました。
ところが、プロジェクトは保留となりました。
技術が失敗したからではありません。
問題は「採算」です。
CCSには、回収設備だけでなく、CO₂を分離する熱や電力、圧縮、輸送、地下貯留、モニタリングなどの費用がかかります。
一方、企業が得られるのは、
「CO₂を1トン排出しなかったことによる経済価値」
です。
カナダでは以前、2030年に炭素価格を1トン170カナダドルまで引き上げる軌道が示されていました。
しかし現在示されている2030年の水準は115カナダドルです。
つまり、
CCSが安くなったのではありません。
CCSを行うコストに対して、炭素価格の見通しが十分高くなくなったのです。
脱炭素技術は、技術だけでは普及しません。
「CO₂を減らすことに、社会がいくら払うのか」
その制度設計も同じくらい重要なのです。
DACとはDirect Air Capture。
大気中から直接CO₂を回収する技術です。
大気中のCO₂濃度は低いため、工場の排ガスからCO₂を回収するより難しく、現在も高コストです。
それでも世界で投資が続いています。
2026年6月には、カナダ・アルバータ州のDeep Sky Alphaで、認証済みのDAC由来Removalクレジットが発行されました。
Deep Skyによると、第三者認証機関Isometricが認証し、マイクロソフトとRoyal Bank of Canadaに供給されます。
これまでDACでは、
「将来、この設備が完成したら何万トン購入します」
という長期購入契約が多く使われてきました。
それによって企業が、まだ建設前のDACプロジェクトの資金調達を支えてきたわけです。
今回面白いのは、
実際に大気からCO₂を回収する。
地下に貯留する。
第三者が検証する。
クレジットを発行する。
そして企業へ引き渡す。
ここまでが実際につながったことです。
量はまだ小さい。
価格も高い。
それでも、DACが「将来期待される技術」から、「実際にRemovalを生み出す技術」へ一歩進んだことは確かです。
Removal市場を考えるうえで、SBTイニシアチブ、SBTiの動きも重要です。
SBTiは2026年6月、Corporate Net-Zero Standard Version 2.0を公表しました。
基本はこれまでと同じです。
企業はまず、自社やサプライチェーンの排出量を可能な限り削減する。
クレジットを買えば、自社の削減をしなくてもよい、という制度ではありません。
しかし、新しい動きがあります。
SBTiは2035年以降、一定の大企業について、その時点でも継続している排出量の一部に相当するRemovalを支援し、その比率をネットゼロ年へ向けて増やしていく方向を示しています。
さらに、CO₂のような長寿命の温室効果ガスでは、数百年から数千年炭素を保持できる「long-lived removals」を重視する考え方も示しています。
ただし、2035年の内容が現在の案のまま確定したわけではありません。
SBTiは、今後のVersion 3で見直すとしています。
それでも、
「将来、Removalが大量に必要になる可能性がある」
というシグナルが市場に出た意味は大きいと思います。
2035年はまだ先です。
しかしDACやBECCSの設備は、来年突然大量に作れるものではありません。
だから企業は、今から動き始めています。
最近、Removal、つまりCO₂除去系のクレジットへの関心が高まっています。
価格情報会社General Indexによると、2026年7月の評価では、Nature Based RemovalとTechnology Removalが1トン当たり22.45ドルだったのに対し、Nature Based Avoidanceは7.10ドルでした。
もちろん、すべてのRemovalが22.45ドルという意味ではありません。
特にDACなどは、技術やエネルギー源、貯留方法、契約内容によって価格が大きく異なります。
では、なぜRemovalは高く評価されるのでしょう。
理由の一つは、
「すでに大気中にあるCO₂を取り除く」
からです。
さらに、
本当に除去したのか。
何年間保持されるのか。
再び大気中へ戻らないのか。
第三者が確認できるのか。
こうした条件も問われます。
森林、土壌、バイオ炭、鉱物固定、DACCS。
すべてRemovalになり得ますが、炭素を保持できる期間は同じではありません。
これからはRemovalの中でも、
「どれだけ長く固定できるか」
によって価格差が広がる可能性があります。
安い1トンを探す市場から、質の高い1トンを選ぶ市場へ。
少しずつ変化が始まっています。
CCSとRemoval。
似た場面で使われるので、少し分かりにくい言葉です。
CCSは、CO₂を回収し、輸送して、地下などに貯留する「技術」です。
一方、Removalは、大気中に存在するCO₂を取り除くという「結果」を意味します。
ですから、
CCS=Removal
ではありません。
例えば、セメント工場から出るCO₂を煙突から回収して地下に貯留すれば、大気への排出を防ぐことができます。
これは非常に重要な脱炭素技術ですが、基本的には「排出削減」です。
一方、大気中のCO₂を直接回収するDACと地下貯留を組み合わせたDACCSはRemovalになります。
植物が大気から取り込んだ炭素を含むバイオマスを利用し、発生したCO₂を回収・貯留するBECCSも、一定の条件を満たせばRemovalです。
大切なのは、CCSという設備の名前だけを見るのではなく、
「その炭素は、もともとどこにあったのか」
を見ることです。
ここが分かると、最近のカーボンクレジット市場のニュースがずっと理解しやすくなります。
カーボンクレジットというと、
「CO₂を1トン減らした」
という数字に目が行きます。
しかし最近、この「1トン」の中身が、以前より重要になってきました。
省エネルギーによって排出を減らした1トン。
森林伐採を防いだ1トン。
大気中からCO₂を取り除いた1トン。
さらに、そのCO₂を数十年間保持するのか、数百年、数千年単位で固定するのか。
同じCO₂1トンでも、意味が違います。
ボランタリークレジット市場では、追加性、二重計上、MRV、炭素を保持できる期間などを細かく見る動きが強まっています。
つまり、
「何トンあるのか」
だけではなく、
「どのような1トンなのか」
が問われる市場になり始めています。
カーボンクレジットの価格を見るときも、単純に1トンいくら、と比較するだけでは分からない時代になってきました。