仲間たちと
- 2026年10月31日

再生可能エネルギーの普及を考えるうえで、国の支援制度が果たしてきた役割は大きなものがあります。
日本でもFIT制度によって、太陽光や風力、バイオマスなどの発電事業への投資が進みました。政策的な支援がなければ、実現が難しかった事業も少なくなかったでしょう。
しかし、再生可能エネルギーを持続的に普及させるには、支援制度に依存し続けることができるのかという問題を考える必要があります。
特にバイオマス発電は、設備を建設すれば終わりという事業ではありません。運転を続ける限り、燃料を調達しなければならないのです。
海外から燃料を輸入する場合、為替の変動や輸送費、国際的な需給の変化などが事業の採算に影響します。さらに、持続可能性や温室効果ガス排出量に関する要求が厳しくなれば、燃料の調達方法を見直す必要も出てくるでしょう。
今回の経済産業省の審議会でも、バイオマス発電の持続可能性とともに、将来的な事業の自立化が重要な検討課題となっています。
私は、これは非常に重要なテーマだと考えています。
環境に良い事業であっても、経済的に継続できなければ長続きしません。一方、経済性だけを追い求めて環境への配慮が不十分になれば、再生可能エネルギーとしての社会的な信頼を失うことになりかねません。
環境と経済を対立するものとして捉えるのではなく、両立できる事業の仕組みを作ることが必要です。
例えば、燃料の調達経路を見直して輸送に伴う排出量を減らすことが、輸送コストの削減にもつながる場合があります。燃料の品質や供給を安定させることも、発電効率や事業の継続性に寄与するでしょう。
こうした改善は、補助金の有無にかかわらず、事業者自身にとって意味のある取組です。
再生可能エネルギーが本当の意味で社会に定着するためには、政策的な支援によって市場を育てる段階から、環境価値と経済価値を両立させる段階へ進むことが求められます。
補助金は、事業を始めるための後押しにはなります。しかし、永続的な事業の価値を保証するものではありません。
支援制度が変わっても、社会から必要とされ、環境にも貢献し続けることができるか。
再生可能エネルギーの真価は、そこに問われるのだと思います。
環境政策には、大きく分けて二つの方法があります。一つは法律や制度によって企業に一定の対応を求める方法。もう一つは、企業自身の判断による自主的な取組を促す方法です。
どちらが優れているという単純な話ではありません。
規制を強化すれば、一定の取組を広く求めることができます。しかし、企業の負担が増えることもあります。一方、自主的な取組には柔軟性があり、意欲のある企業が先進的な対応を進めることもできます。
問題は、その取組がどこまで広がるかということです。
2026年10月の経済産業省の審議会では、バイオマス発電事業者によるライフサイクルGHG削減の自主的な取組についても議論されました。
自主的な取組を進めるには、排出量を算定するためのデータや専門知識が必要です。事業者によっては、海外の燃料供給者から十分な情報を入手することが難しい場合もあるでしょう。
こうした課題を、単純に企業の意欲の問題として片付けることはできません。
私は、自主的な環境対策を広げるためには、実施する企業が正当に評価される仕組みが重要だと考えています。
例えば、排出量を継続的に測定し、削減努力を公開している企業が、燃料調達や取引の場面で評価されることです。先進的な企業の経験や算定方法を共有し、他の企業も取り組みやすくすることも必要でしょう。
同時に、情報公開が不十分な場合や取組が進まない場合には、制度面でどのような対応が適切なのかを検討することも大切です。
環境対策の目的は、報告書を増やすことではありません。実際に環境負荷を減らすことです。
自主的な取組で十分な成果が得られるのであれば、それは望ましいことです。しかし、成果が得られないのであれば、別の方法を考える必要があります。
大切なのは、規制か自主性かという二者択一ではなく、実際に成果を上げることのできる仕組みを作ることなのでしょう。
環境への善意は尊重されるべきです。しかし、善意だけに頼らない制度設計もまた、重要なのだと思います。
バイオマス発電は再生可能エネルギーに分類されています。しかし、再生可能エネルギーだからといって、温室効果ガスがまったく排出されないわけではありません。
例えば、海外で発生した農産物の残渣を日本の発電所で利用する場合を考えてみましょう。
現地での収集、乾燥、加工、港までの輸送、船舶による海上輸送、国内での運搬など、多くの工程が必要になります。当然、それぞれの工程でエネルギーが使われます。
発電所だけを見ていては、こうした排出量を十分に把握することができません。
そこで重要になるのが、ライフサイクルGHGという考え方です。原料の調達から最終的な利用に至るまで、関連する温室効果ガスの排出量を評価します。
日本のFIT・FIP制度では、対象となる一定のバイオマス発電事業について、比較対象となる火力発電に対するGHG削減基準が設けられています。2029年度までの対象燃料では50%、2030年度の対象燃料では70%という削減水準が設定されています。
この考え方は、バイオマス発電だけに限ったものではありません。
電気自動車であっても、電池の製造や電力の供給には環境負荷が生じます。再生材を利用した製品であっても、回収や再加工にはエネルギーが必要です。水素についても、製造方法によって温室効果ガスの排出量は大きく異なります。
つまり、環境に良いとされる技術についても、実際の環境負荷を確認する必要があるのです。
ただし、ライフサイクル評価は万能ではありません。何を評価の対象に含めるのか、どのようなデータを使用するのかによって結果は変わります。計算の前提条件を明確にすることが欠かせません。
私は、今後の環境ビジネスでは、環境に良いという言葉だけでは説得力を持たなくなると考えています。
どれほど良いのか。何と比較して良いのか。どこまで調べて良いと判断したのか。
それを数値と根拠で説明できることが、企業の競争力にもつながるでしょう。
再生可能という言葉の安心感に頼らず、見えない排出にまで目を向ける。その積み重ねが、脱炭素社会の実現には必要なのだと思います。