夜の海岸
- 2026年08月20日

駅のホームを歩いていると、普段はあまり意識しないものがたくさんあります。
屋根がある。
電気がつく。
電車が時間通りに来る。
雨が降れば、水はどこかへ流れていく。
私たちは、インフラが正常に動いている時には、その存在をほとんど意識しません。
しかし、大雨や台風、停電、洪水が起きると、一気にその重要性が見えてきます。
最近、仕事でも水に関する相談が増えています。
水位を測る。
遠隔で監視する。
排水する。
設備の状態を把握する。
日本では当たり前に見える技術が、海外の都市では大きな課題を解決する可能性があります。
脱炭素の会社なのに、なぜ水なのか。
そう聞かれることもあります。
でも、気候変動への対応は、CO2を減らすことだけではありません。
洪水、渇水、熱、農業、防災。
「これからの気候の中で、どう暮らしていくか」
そこまで考えるのが、環境ビジネスなのだと思っています。
仕事の後、日本酒を飲むことがあります。
写真のように二本並ぶと、どちらからいくかという、非常に重要な経営判断が必要になります。
日本酒は面白い飲み物です。
米。
水。
気候。
土地。
そして造る人。
同じ「日本酒」という名前でも、地域によって味が違います。
環境の仕事をしていると、「自然資本」という言葉をよく使います。
森林、水、生物多様性、土壌。
しかし自然資本とは、報告書の中だけに存在するものではありません。
酒もそうです。
農業もそうです。
食べ物もそうです。
地域の文化そのものが、その土地の自然とつながっています。
最近はTNFDなどを通じて、企業も自然との関係を説明することが求められるようになってきました。
ただ、難しい言葉を並べる前に、
「この商品は、どこの水と、どこの土地に支えられているのだろう」
と考えてみる。
案外そこから始めたほうが、自然資本というものがよく見えてきます。
もっとも、日本酒を飲んでいる時にそこまで考えているかというと、
たぶん考えていません。

テーブルの上にサックスのネックとマウスピース。
その横にはマンゴー。
まったく関係がないように見えます。
しかしLCAの仕事をしていると、世の中のものが少し違って見えるようになります。
このサックスは、どこで金属が採掘され、
どこで加工され、
どうやって日本へ運ばれたのか。
マンゴーは、どこで育ち、
どれだけ水を使い、
どのような包装をされ、
どうやってここまで運ばれたのか。
製品には、必ずその前があります。
そして、使い終わった後もあります。
LCA、ライフサイクルアセスメントとは、簡単に言えば、
「その製品の一生を見ること」
です。
これから建築物を含め、さまざまな分野でLCAの考え方はさらに重要になっていくと思います。
数字を計算するだけなら、いずれAIがかなりやってくれるでしょう。
大切なのは、
その数字を見て、
「では、どこを変えればよいのか」
を考えることです。
サックスを眺めながらそんなことを考え、
マンゴーは普通に食べました。

横浜を歩いていたら、巨大なピンクの柱に遭遇しました。
「うんこミュージアム」。
かなりの存在感です。
環境コンサルティング会社のブログで、この写真を使っていいものか少し迷いました。
しかし、使います。
環境問題は重要です。
気候変動も、生物多様性も、資源循環も、水問題も、決して軽いテーマではありません。
だからこそ、伝え方まで重くする必要はないと思っています。
「CO2を何%削減する」
「Scope3を算定する」
「TNFDに対応する」
もちろん必要です。
でも、それだけでは人はなかなか動きません。
面白い。
やってみたい。
それなら自分たちにもできそうだ。
そう思ってもらえることも大切です。
私たちが20年近く環境の仕事を続けてこられた理由の一つは、
環境問題を「我慢する話」ではなく、
「新しいことを始める話」
として考えてきたからかもしれません。
真面目に仕事をする。
でも、真面目すぎない。
時にはジャズも聴く。
酒も飲む。
海にも行く。
そして、うんこミュージアムの前では写真も撮る。
環境ビジネスには、そのくらいの余白があっていいと思っています。

クイーンズスクエア横浜で、中学生の吹奏楽演奏会が開かれていました。
楽器をやっているので、つい足が止まります。
一生懸命演奏している姿を見ると、こちらまで嬉しくなります。
会社経営をしていると、「人材育成」という言葉をよく使います。
でも、人は本当に「育成」されるものなのだろうか、と時々思います。
誰かに教えられて覚えることもあります。
しかし結局は、
面白い。
もっと知りたい。
もう少しうまくなりたい。
その気持ちが人を伸ばします。
これは音楽でも仕事でも同じです。
環境の世界も、20年前とは比較にならないほど専門分野が広がりました。
脱炭素だけでも、
再エネ、排出量算定、Scope3、LCA、JCM、カーボンクレジット。
さらに生物多様性、TNFD、水資源。
全部を一人で知ることなどできません。
だから会社に必要なのは、
「全部知っている人」
ではなく、
「知らないことを面白がれる人」
なのかもしれません。
中学生たちの演奏を聴きながら、そんなことを考えました。